NODA・MAP番外公演『THE BEE』@世田谷シアタートラム


日本版は観ていない。だから比べることはできない。


だが、明らかなことは、役者がうまいということ。圧倒的にうまい。


あらすじはこう。
あるひとりの善良な男がある日突然マスコミに囲まれる。
殺人犯が妻と息子を人質に彼のマイホームにたてこもったのだ。
なにもしない警察とドラマを求めて群がるマスコミ、そして当の犯人に向けて、
その善良な男がとった道は、加害者の男の妻と息子を人質にたてこもること。


ありふれて幸せだったと思われる家族(善良な男)を突然襲った不幸という設定の
向こうに透けてみえるのは、まさに現在、世界で起きている暴力の縮図だ。


されど、野田が紡ぎだす世界は、彼が強烈に批判するマスメディアが流す情報のように、
するりとすり抜けてしまう。


こうしている間にも世界のどこかで誰かが無意味に死んでいくという事実に、
もはや心が大して痛まないように、痛みは私の心に届かない。


野田の意図がどこにあるのかは知らない。
だが、痛みを感じないことへの不気味な痒みだけがもどかしく残る。