島本理生『ナラタージュ』
この作者、こんな本書く人だったっけ?と記憶を懸命に辿る。『リトル・バイ・リトル』を読んだ気になっていたのだけれど、もしかしたらまだ読んでいなかったのだっけ。立ち読みしただけだったのかも。そんなことを思いつつ、ページをめくる。気がせいて、捲る手が震えそうになる。未来を先読みしたくて、最後のページにまで一気に飛んでしまいそうになる衝動を抑えて、またページを捲る。
これ、ホント、すごい。すごい本だよ。
この本を読み終わった後、すぐにこの作者の別の本が読みたくなって、文庫本を探した。短編集の『シルエット』は『ナラタージュ』を読んだ後では物足りない。彼女はきちんと描写する。きちんと書く。この短編集もそれはそうなのだけれど、彼女でなくても書けるか程度の既視感。
『ナラタージュ』、これは、すごい。
もうすぐ降りる駅が近づいているというのにそのまま読み続けたくて、読み終わるまで乗ってようかと考えて、やっぱりいつも通りの駅で降りる。正解だった。読み耽った。二人がけソファーのかたっぽでティッシュ箱を空にしながら。決して快いだけに止まらない疲労すら覚える読後感。されどこの上ない充実感。嫉妬すら覚える凄い才能に出会ってしまったという喜びも含めて。