20世紀の戯曲(2) 現代戯曲の展開

 本書は1998年2月に刊行された戯曲論集『20世紀の戯曲日本近代戯曲の世界』の続編である。近代以降戦前までの戯曲論を収めた前書に続き、本書では戦後から80年代のつかこうへい登場以前までの戯曲を取り上げ論じている。第一部「新登場の劇作家たち」では、戦後に入って台頭してきた劇作家たちの戯曲を、第二部「戦前からの劇作家たち」では、戦前から活躍する劇作家たちの戯曲について論じ、章ごとに年代順に並べている。第三部では、「劇世界の拡大へ」と題して、「リアリズム演劇」から脱し「ロマンティシズム演劇」へと質的変化を遂げていく戦後の演劇の走りとなる戯曲として、福田善之の「真田風雲録」を始めに置き、60年代後半から70年代にかけて起った「アングラ演劇」へと続く世代の戯曲を、年代順に論じている。
 戯曲発表の年代順に各文を並べることによって、戦前からの新劇による「リアリズム演劇」を主流とする演劇から、「リアリズム演劇」への反発から様々な表現に挑もうとする「ロマンティシズム演劇」へと拡がっていく戦後の演劇状況が自ずと見えてくる。とはいえ本書で取り上げられた戯曲が、「リアリズム演劇」の範疇のものであれ何であれ、それまでの戯曲にない何かしら新しいものをもたらす戯曲として選ばれたものであるという意図は十分にうかがえる。さらにここで一言述べておかねばならないことは、本書は演劇史でもなく、文学史でもない戯曲史という視点からの試みであるということである。近代の台詞を主とした表現方法から様々な形式を含むアングラ以降小劇場演劇へと変化を遂げた現代において、近代以降議論され続けている難問ではあるが、演劇と戯曲という問題、戯曲をどう論じるかという問題は、ますます困難を極めている。本書に続いて刊行を予定される続編では、つかこうへい以降の戯曲が収められ、シリーズ3冊を通して20世紀の戯曲史が浮かび上がる。本シリーズが戯曲研究に投げかけた課題は決して軽んじてはならないものである。